その夜は はじめから胸騒ぎが していた。
当直業務に向かう車内から眺めた月。
いつもなら
「わぁ~綺麗だなー!」と
まるで心洗われるような感覚なのに
その夜は
なぜか胸がざわざわと騒いで
「何か嫌だなぁ・・・
今夜も静かな夜でありますように」と、つい祈ってしまっていた。
出勤すると
やはりざわざわと落ち着かない雰囲気
なかなか寝付くことが出来ず、ソワソワと起きてらっしゃる利用者様が2人。
夜勤者が一生懸命寄り添っている中
私は、自分がすべき当直業務の準備を終え、
次回の勉強会のレジメ作りの参考になるものをケータイで検索するため、夜勤者に挨拶をし、早々に寝床へ引き上げた。
しばらくして
叫びにも近いような悲痛な声で、
夜勤者が助けを求めてきた。
ややパニックになりかけ涙目で
震えながら私の目の前に突き出された見守りカメラに
“それ”は 写っていた。
この仕事をしていると
どうしても「人生の終わり」に
立ち会わせていただくこともある。
なので、夜間業務の時は
何となく誰かが見つめているような視線を感じても、
なんとなく誰かが通り過ぎたような感覚があっても、
「逢いに来てくれたのかな?」なんて
自分の都合の良いように解釈、納得することが、
たまーにだけど、時々ある。
しかも、建物がある土地は
昔、神社だった神聖な場所。
なので、少々
「何か出ても不思議ではないよね」と
興味本位と憶測な怖がりな気持ちもある。
だけど、“それ”は
明らかに違った。
見た瞬間、全身に寒気がし、鳥肌が立ち、心拍数は極端に上がり、
私の中の何かが
「“それ”は見てはいけないもの」
「“それ”は異質なもの」と
言った気がした。
恐怖で確認できない。
消そうとしても消えない。
無理にカメラを再起動にかけ
“それ”をなんとか消去して
夜勤者と2人震えながら腕を組み
互いにしがみつきながら
“それ”が写った利用者様のお部屋に向かった。
利用者様はベッドに横になられているも
私たちに気付き、こう言った。
「俺、頭がおかしいんかなぁ?
さっき誰かが来たんじゃ。」
2人とも顔が青ざめる。
とりあえず利用者様の無事を確認し、
部屋を出た瞬間、図ったように
見守りカメラから反応を告げる音が鳴った。
(つづく)。